建設会社の枠にハマらず、グローバルな未来を描く

株式会社iNSAX
代表取締役社長 佐矢優
https://www.insax-jp.com/
タイのエイズ孤児の学校設立を目指す
大きな未来構想を描き、業界や社会の常識を変えるような変革を実行してきた経営者を讃える「ビジョナリー賞」に、株式会社iNSAXの代表取締役社長・佐矢優氏が選ばれた。大分県に本社を置く同社は、橋梁補修をメインに、ガードレールなど交通安全施設の工事、トンネル補修、各種インフラの耐震補強工事を手がけている。一見、単なる施工会社に思えるが、社会全体の未来を見据え、グローバルなビジョンを描いているのが特徴だ。
大きく分けて2つのビジョンがある。1つが、エイズウイルス(HIV)で親を失った子ども「エイズ孤児」のための学校をタイに開設することだ。この発想に至った背景には、佐矢氏の経歴が深く関係している。
子どものころから読書が好きだった佐矢氏は、小学生の頃にある恋愛小説を読んだ。その小説では主人公と恋愛関係にある幼馴染の女の子がエイズで亡くなってしまう。その展開に衝撃を受けた佐矢氏は、自然と問題意識が芽生え、エイズについて徹底的に調べ、知識を深めていったという。「傷つく必要がないのに傷つく人がいる。その現実がとても許せませんでした。この子たちのために、何かできることはないだろうかと考えるようになりました」と振り返る佐矢氏。
それから月日が流れ、大学生になった佐矢氏は、バックパッカーとしてアジア各国を巡り、最終的にタイに惹かれるようになる。そして大学卒業後、タイ語が一切できないにも関わらず、直感を信じ、単身タイへ。タイでは1980年代後半から1990年代初頭にかけて、タイの性産業従事者とその顧客の間でHIV感染が爆発的に増加した。現在は治療薬の普及などで減少傾向にあるものの、過去の流行期の影響が尾を引き、依然としてエイズ孤児が一定数存在している。
自身のエイズへの関心とリンクした佐矢氏は、エイズ孤児と通じ合うために、タイ語を猛勉強し、3ヶ月間でマスター。現地の大学で日本語講師をしながら、エイズ孤児への理解を深めていった。その結果、教育の必要性を痛感したことから、エイズ孤児のための学校の設立に思い至った。佐矢氏は「5年後程度で実現させたいと考えています。子どもたちと一緒に遊んだり、自分の力でお金を稼ぐ方法を教えてあげたりしたいですね」と目を輝かせる。

外国人技能実習生と受け入れ企業の架け橋に
そんな佐矢氏のもう1つのビジョンが、外国人技能実習生の監理団体を設立することだ。もともと佐矢氏は経営の傍ら、タイでの日本語講師の経験を活かし、建設現場で働く地元の実習生を対象に、日本語の専門用語をボランティアで指導している。
そういった経験の中で、実習生を受け入れる日本企業側の理解が不足している現状を知ったという。「実習生は母国で一定期間の日本語学習を受けてから日本に来ています。しかし日本の方言までは知らないことがほとんどです。例えば大分弁の『しゃーしいちゃ』は、標準語だと『静かにしなさい』という意味なのですが、それを知らない実習生が、日本企業の上司に注意されても喋り続けてしまうといった話を耳にします。相手に何かを伝えたいのなら、相手の言語に寄り添う必要があると思うのです」と語る。
監理団体設立の暁には、実習生と企業の間に立った各種支援に加え、日本企業向けの研修などを検討しているという。なんのツテもなくタイへ飛びだち、自力でタイ語を習得した佐矢氏ならではの視点といえるだろう。今後は佐矢氏自身で、団体設立に必要な行政書士資格を取得し、スピーディーかつきめ細やかなサポートを実現させる考えだ。
建設会社の枠にとらわれず、自身の想いに従い、柔軟に夢を描く佐矢氏。その行動指針は会社名に込められている。iNSAXの「iNS」はInspiration(インスピレーション)の冒頭3文字、「A」はAction(アクション)の頭文字に由来する。「X」は文脈によって「永遠」などのイメージを持たせることから、転じて「続ける」という意味を込めた。「この3つが物事を成功させるための必要な要素だと考えています。まずは“インスピレーション”を大事にする。実際に“行動”する。そして成功するまで“続ける”。そうすることで、あとから振り返ったとき、やって良かったと思えますし、自分自身を好きにもなれるのではないでしょうか」と佐矢氏は力を込める。
最後に、今回の賞にちなみ、イノベーションを起こそうとしている人へのアドバイスを求めると「ひとまず行動してみることの大切さを伝えたいですね。きっとできるはず。できなかったとしても、できるようになるまで工夫すればいいですし」と話す。とはいえ、一般的には新しいことに挑戦する際、不安に襲われたり、失敗を怖がったりするものだろう。そのような意見に対しては「やってみたいと思うということは、成功するイメージが頭の中に湧いたからだと思うんですよね。成功の可能性を感じているのだから、やらない手はないと思いますよ」とエールを送った。

プロフィール
立命館アジア太平洋大学(APU)卒業後、語学力ゼロのまま一人でタイ王国に進出。3ヶ月でタイ語をマスターし、現地の大学の日本語講師として約2年間従事する。帰国後、株式会社iNSAXを設立。姉・弟も加わり、兄弟で協力して会社を経営。現在は橋梁補修工事を事業の軸としながら、外国人技能実習生への日本語教育も行う。