地域密着メディアから、地方創生をけん引する存在へ

株式会社地域新聞社
代表取締役社長 細谷佳津年
https://chiikinews.co.jp/
地域経済を支える、新たなビジネスモデル
次世代を担う人材・リーダーを育み、未来の産業を切り拓いてきた経営者を讃える「ネクストヒーロー賞」に、株式会社地域新聞社の代表取締役社長・細谷佳津年氏が選ばれた。同社は千葉県八千代市で創業し、フリーペーパー「ちいき新聞」を発行する会社である。約2,500人の配布員を擁し、千葉県や茨城県の約174万世帯へポスティングしている。全40版に分けて配布エリアごとに誌面内容を変え、地域に深く密着した情報を届けている。
近年は、紙媒体広告の縮小やデジタル化の進展により、一般的なフリーペーパー事業は斜陽傾向にある。しかし細谷氏の代表就任からわずか1年半で、同社の時価総額は約4倍にまで上昇した。他社との戦略的な業務提携や新サービスの成功に加え「地域共創プラットフォーム」構想が投資家の成長期待を高めたことが、株価上昇の原動力となった。
「地域共創プラットフォーム」とは、細谷氏が考案した新たなビジネスモデルである。地域の後継者問題の解消や地域経済の活性化を目的に、上場企業である同社のアセット(資産)を活用し、非上場の地元優良企業と協調・共存していく仕組み。
具体的な手段として「株式交付」という制度を利用する。株式交付とは、ある会社が他社を子会社化する際、自社の株式を対価として、相手の株主から株式を取得できる手法を指す。同社の場合、買収対象企業のオーナーに対し、対価として同社の株式を交付する。これにより、オーナー経営者は親会社である上場企業の株主となり、資本的なつながりを持ちながら、元オーナーとして自律的な経営を継続することができる。そのため、買収された企業も上場会社の資金調達力や信頼を活用しつつ、共にプラットフォームの成長を支え合う強固なパートナーシップを築くことが可能となる。M&Aの一環ではあるものの「売って終わり」ではなく「共に支え合う関係」を構築できる点が特長だ。
そして、このプラットフォームの根幹にある意図は、地域社会の持続可能性の確保にある。細谷氏は「子育て支援や企業誘致、観光客誘致といった施策だけでは、その地域に定住する理由にはなりづらい。人が地域に住み続けるためには安定した雇用が不可欠であり、その雇用を創出するのは地場企業にほかなりません。しかし、その企業の多くが後継者問題などにより廃業の危機に直面しています。このプラットフォームは、こうした企業が二世代、三世代と事業を存続させるスキームを提供します。企業が存続することで、住民は安心して働き続けることができ、安定した収入を得られる。そしてその地域に住み続け、消費を行うという好循環が生まれるのです」と語る。この循環が、地域社会全体の持続的な発展につながっていくことを、細谷氏は目指している。

地元企業と共に描く、持続可能な未来
ただし、株式交付という手法を用いる場合、非上場企業のオーナーにはいくつかのリスクが残る。最大の懸念は、対価として受け取った同社株の株価が低迷した場合、期待していた資産価値が得られなくなるという点だ。こうしたオーナーの不安を払拭するため、細谷氏は「当社の株価が下落した場合、その差額を補填するような制度の適用を検討中です。これにより、受け取った対価の価値が目減りするという不安の解消につながります」と説明する。
さらに細谷氏は「黄金株」の発行も検討している。黄金株とは拒否権付株式の通称で、重要事項の議決を拒否できる権利を付与した株式のことを指す。これを元オーナーに付与することで、元オーナーは買収後も重要事項についての発言権を持ち、経営の独立性や事業の継続が同社の一方的な都合で損なわれるのを防ぐことができる。地域経済をけん引する優良企業をプラットフォームに迎え入れるため、同社は緻密なセーフティーネットを構築しているのだ。
加えて、このプラットフォームは地域の未来を担うリーダーの間口を広げる採用戦略としても機能すると、細谷氏は考えている。「例えば個人経営の飲食店などの地元優良企業は、事業に魅力があるにもかかわらず、後継者不足や企業の存続が不透明といった理由から、若手人材を呼び込むことが難しい傾向にあります。しかしこのプラットフォームに加わることで、これらの企業は“上場企業のグループ会社”という位置づけに変わります。地元企業への就職のハードルが下がり、就職した若者は上場企業の一員として、充実した福利厚生のもと安心してキャリアを描いていけるのです。こうした動きが幅広い業種に広がっていけば、結果として地域内で多様な産業が相互に支え合う、独立した経済ユニオンのような基盤ができていくのではないかと期待しています」と細谷氏は語る。
こうした企業戦略の核となる情報は、競合他社に模倣されるリスクを考慮し、通常は公開を避けるものだ。しかし細谷氏はメディアやセミナーなどで、戦略を積極的に語っている。その意図について細谷氏は「当社の取り組みが地方創生の新たなモデルケースになればいいと考えています。このプラットフォームの仕組みを他社が取り入れることは、むしろ歓迎したいです。ただし一般的な上場企業が採用したとしても、事業のシナジーが見えにくく、企業価値の低下を招く恐れもあるでしょう。そういった意味では、地域密着型のインフラを持つ当社だからこそ推進しやすいスキームだと思います」と話す。細谷氏の挑戦は、単なる企業の成長の枠を超え、地域と企業が共に未来をつくるための新たな道筋を示している。

プロフィール
筑波大学卒業後、国際興業株式会社に入社。ハワイ駐在の後、株式会社ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ株式会社)に転進。その後、生駒シービー・リチャードエリス株式会社(現シービーアールイー株式会社)を経て、2009年に株式会社エー・ディー・ワークスに入社。常務取締役CFOとして経営戦略を立案・遂行。株式会社ADワークスグループの専務取締役CFO、岡三デジタル証券準備株式会社の取締役などを歴任し、2022年に株式会社エンジェル・トーチの代表取締役を兼任。2024年より現職。